<ブラシ、禁煙で血流保つ>

朝日新聞 2004年6月28日より


 歯を磨くと血が出る。奥歯がぐらつく。東京都杉並区の主婦高橋彰子さん(68)=仮名=が、 歯周病治療に力を入れる西堀歯科(東京都渋谷区)を訪ねたのは、今から6年前。症状に気付 いてから1年たっていた。

 「口の中の掃除と消毒をし、歯の磨き方を指導しました。その後も約3ヶ月に一回通って もらっています」と、西堀雅一歯科医師。定期検診では、歯と歯肉(歯ぐき)の間にできた溝 「歯周ポケット」を歯科衛生士が調べ、ブラッシングを指導、歯石などを除去している。

 高橋さんは「以前は2〜3分だった歯磨きに、今は5分以上かける。かむにも不自由していたが、 すっきりした」という。

 歯周ポケットに食べかすが残り、侵入した細菌が炎症を起こすのが歯周病。原因になる菌は 10〜15種類あるといわれる。

 診察は、ポケットプローブと呼ばれる針のような器具を、歯周ポケットに軽く刺す。深く刺さる ほど進行した歯周病だ。

 自覚症状はほとんどないが、口臭が強くなることが多い。歯を磨くとき、歯肉から出血しやすくなる。 悪化すると、何もしないのに出血したり、歯がぐらついたりしてくる。すぐに歯科医に診てもらった方がいい。



 初期治療では、ポケットにたまった菌まみれの傷んだ血管や歯肉組織をかき出し、菌を取り除くことが第一だ。

 ポケットが浅く、歯肉の炎症も軽度なら、歯磨きでかなりの効果が期待できる。ただ、歯磨きだけで 菌を完全に取り除くのは難しい。そこで、歯科衛生士が歯科医師の指導の下、歯石やポケットにたまった 菌を取り除く歯科医院が増えてきた。

 衛生士の小木曽一恵さんは「継続して患者さんを診ることで、どこに問題があるか分かってくる」と話す。 定期的に患者と接すれば、歯肉の変化を敏感に感じ取れる。再発しても、初期段階で食い止められる。 西堀さんは「再発予防は、患者の意識をいかに保つかが大切。患者に歯磨きの必要性を伝え、信頼関係を 築くのに衛生士が果たす役割は大きい」と説明する。

 広島高等歯科衛生士専門学校教務主任の小原啓子さんは「美容院に行く感覚で衛生士と付き合ってほしい」 と訴える。

 初期治療で大半は良くなるが「ごく一部、なかなか治らない人がいる」と西堀さん。 取り除きにくい菌に感染していると、抗生物質を使うことがある。外科治療が必要なこともある。 合併症が疑われると、内科医受診を勧めるなどの助言もする。



 ブラッシングの効能は、細菌を取り除くだけではない。歯肉を刺激して血の流れを良くすると、 免疫力で原因菌をやっつけられるようになるといわれる。

 たばこと歯周病の関係を調べている吉江弘正・新潟大教授も、血流の重要性を指摘する。 喫煙習慣のある大学生16人に禁煙してもらうと、歯肉の血流は3日で増え始め、5日後には歯肉からしみ出て 菌の感染を防ぐ液の量も増えた。

 喫煙者の方が非喫煙者より歯周病になりやすく、禁煙した人は喫煙者より歯周病の再発が少ないと いった別の研究結果と合わせ、「禁煙は、血流を回復させ免疫機能を高めることで、歯周病を防いで いる可能性が高い」と吉江さんはみている。

 ただ、ある遺伝子の有無によって、喫煙者でも歯周病に特になりやすい人と、非喫煙者とほとんど 変わらない人がいると分かってきた。吉江さんは「歯周病予防は当面、丁寧な歯磨き、定期的な歯科検診、 適切な生活習慣の『三つのて』の心がけから。将来は、それに遺伝子診断が加わるだろう」と指摘している。
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